「暗記が苦手」という人は多いのではないでしょうか。単語帳を何度見ても覚えられない、テスト前に詰め込んでもすぐ忘れてしまう。そんな経験をしたことがある人も少なくないはずです。しかし、人間の記憶の仕組みを理解すれば、暗記は決して難しいものではありません。この章では、効率的に覚えるための方法について解説します。
長期記憶と短期記憶
人間の記憶には、大きく分けて「短期記憶」と「長期記憶」の二種類があります。
短期記憶とは、一時的に情報を保持する記憶のことです。電話番号を聞いてすぐにダイヤルするとき、その番号は短期記憶に保存されています。しかし、電話をかけ終わった後には、その番号を思い出せないことが多いでしょう。短期記憶は容量が限られており、新しい情報が入ってくると、古い情報は押し出されてしまいます。
一方、長期記憶とは、長い期間にわたって保持される記憶のことです。自分の名前、家族の顔、毎日通う道順。これらは意識しなくても自然と思い出せます。長期記憶に保存された情報は、数年、場合によっては一生涯にわたって保持されます。
勉強において目指すべきは、学んだことを長期記憶に定着させることです。テスト直前に詰め込んだ情報は短期記憶に入りますが、テストが終わればすぐに忘れてしまいます。これでは、せっかく勉強した意味がありません。
長期記憶に残すためのコツ
では、どうすれば情報を長期記憶に定着させることができるのでしょうか。答えはシンプルです。
長い時間をかけて、頻繁に目にする情報は、自然と長期記憶になる。
これが記憶の基本原則です。
考えてみてください。自分の住所や電話番号を覚えるのに、語呂合わせや暗記カードを使った人はいるでしょうか。おそらくいないはずです。何度も書いたり、何度も言ったりしているうちに、いつの間にか覚えていたはずです。
毎日通る通学路を覚えるのに、特別な努力は必要ありません。毎日見ている風景は、自然と記憶に刻まれていきます。友達の名前を覚えるのに、必死に暗記した人はいないでしょう。何度も呼んだり、何度も聞いたりしているうちに、当たり前のように覚えてしまいます。
つまり、語呂合わせや特殊な記憶術がなくても、繰り返し触れることで人間は自然と覚えられるのです。これは脳の仕組みとして、頻繁にアクセスされる情報ほど重要だと判断し、長期記憶として保存するようにできているからです。
暗記が苦手な人の問題点
暗記が苦手だと感じている人の多くは、この「繰り返し」が足りていません。
一度見ただけで覚えようとしていませんか。テスト前日に一夜漬けをしていませんか。それでは、情報は短期記憶に入るだけで、すぐに消えてしまいます。
また、一回の学習に長い時間をかけすぎている人も多いです。1つの単語を5分も10分もかけてじっくり覚えようとする。しかし、これは効率的ではありません。なぜなら、記憶の定着には「間隔」が重要だからです。1週間に1回、1時間勉強するよりも、毎日10分弱勉強する方が効果的に記憶できます。
英単語100個を1週間で覚える方法
ここで、具体的な暗記法を紹介します。英単語を例にとりますが、この方法は歴史の年号や化学式など、他の暗記にも応用できます。
ステップ1:覚えていない単語を100個抽出する
まず、単語帳やテスト範囲から、まだ覚えていない単語を100個選び出します。
ここで重要なのは、すでに覚えている単語は必ず省くことです。すでに知っている単語を何度見ても意味がありません。時間の無駄です。自分にとって「新しい」単語だけを集めてください。
テストなどで結果を出すためには「知っている単語を増やす」のではなく「知らない単語を減らす」という意識が大切です。
ステップ2:1日10分で100単語を一周する
次に、1日10分間で、100単語を一通り見ます。
100単語を10分ということは、1単語あたり約6秒です。6秒で「単語→意味」を確認し、綴りを覚えようと努力します。
「6秒で覚えられるわけがない」と思うかもしれません。その通りです。6秒で完璧に覚える必要はありません。大事なのは、10分間で100単語を一通り見ることです。完璧に覚えようとして1つの単語に時間をかけすぎると、他の単語を見る時間がなくなってしまいます。
覚えられなくても気にせず、どんどん次の単語に進んでください。
ステップ3:これを毎日繰り返す
このセットを毎日繰り返します。1日目、2日目、3日目…と、同じ100単語を毎日10分間で見ていきます。
最初の数日は、驚くほど覚えられません。3日目くらいまでは「全然覚えられない」「この方法は自分に合っていないのでは」と不安になるかもしれません。しかし、ここで諦めないでください。
4日目くらいになると、4割程度の単語が覚えられているようになります。 不思議なことに、ある日突然「あれ、この単語知ってる」という感覚が増えてきます。
そして6日目くらいには、ほぼ全ての単語が覚えられています。1週間前には100個全て知らなかった単語が、今では当たり前のように意味が浮かんでくる。この成功体験は、次の学習へのモチベーションになります。
より効果を高めるために
理想的には、朝と夜の1日2回、このセットを行うのがベストです。朝10分、夜10分の計20分。これができれば、記憶の定着はさらに早くなります。
しかし、1日1回でも十分効果はあります。もし1回しかできないなら、夜寝る前に行うのがおすすめです。睡眠中に脳は記憶を整理・定着させる働きをするため、寝る前に見た情報は記憶に残りやすいのです。
なぜこの方法が効果的なのか
この方法が効果的な理由は、記憶の仕組みに沿っているからです。
まず、短時間で多くの情報に触れることで、脳に「この情報は重要だ」と認識させます。1つの単語に長時間かけるよりも、多くの単語に短時間ずつ触れる方が、脳は効率的に処理できます。
次に、毎日繰り返すことで、情報が長期記憶に移行します。1日だけ長時間勉強するよりも、短時間でも毎日繰り返す方が、記憶は定着しやすいのです。これを「分散学習」と呼びます。
そして、間隔を空けて復習することで、忘れかけたタイミングで思い出す練習になります。完全に忘れてから覚え直すよりも、「なんだっけ、あ、そうだ」と思い出す方が、記憶は強化されます。
英単語ができると英語が好きになる
最後に、英単語を覚えることの副次的な効果についてお話しします。
英単語を完璧に覚えると、英語がある程度読めるようになります。当たり前のことのように聞こえますが、これは非常に大きな変化です。
単語がわからない状態で英文を読むのは、まるで暗号を解読するような苦痛な作業です。一文ごとに辞書を引き、それでも文の意味がわからず、英語が嫌いになっていく。多くの人がこの悪循環に陥っています。
しかし、単語を知っていれば、英文がスラスラ読めるようになります。読めるようになると、「あ、この文の意味がわかる」という小さな喜びが生まれます。その喜びが積み重なると、英語が「好き」に変わっていきます。
好きになれば、自分から進んで勉強するようになります。英語の本を読んでみよう、英語の動画を見てみよう、英語で話してみよう。勉強が苦痛ではなく、楽しみになるのです。
この好循環を生み出す最初の一歩が、英単語を覚えることなのです。
まとめ
暗記の基本は「長い時間をかけて、頻繁に触れること」です。語呂合わせや特殊な記憶術に頼らなくても、繰り返し見ることで人間は自然と覚えられます。
英単語を効率的に覚えるには、以下の方法を試してください。
- まだ覚えていない単語を100個抽出する(覚えている単語は省く)
- 1日10分で100単語を一周する(1単語6秒ペース)
- これを毎日繰り返す
- 最初の数日は覚えられなくても諦めない
- 4日目くらいから効果が現れ、1週間でほぼ覚えられる
この方法で英単語を覚えれば、英語が読めるようになり、英語が好きになります。好きになれば、自分から進んで勉強できるようになります。
暗記は才能ではありません。正しい方法で繰り返せば、誰でもできるようになります。今日から、この方法を試してみてください。