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Jan 27, 2026
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数学と自然科学の違いについて

数学は定義から論理的に定理を導く学問であり、自然科学は実験と観測で法則を発見する学問である。この根本的な違いを理解することで、学問の奥深さが見えてくる。

学校では「理系科目」として数学、物理、化学、生物などを一緒に学びます。しかし、数学と自然科学(物理・化学・生物など)は、実は根本的に異なる性質を持つ学問です。この違いを理解することで、それぞれの学問をより深く楽しめるようになります。

数学は「定義」から始まる

数学は、人間が定めた「定義」を出発点として、論理的に「定理」を導き出していく学問です。

例えば、「三角形の内角の和は180度である」という定理があります。これは誰かが実際に何万個もの三角形を測って発見したわけではありません。「点」「直線」「角度」といった基本的な定義と、いくつかの公理(証明なしに正しいと認める前提)から、論理的な推論によって証明されたものです。

数学の世界では、一度証明された定理は永遠に正しいままです。ピタゴラスの定理は2500年以上前に証明されましたが、今でも、そしてこれからも正しい定理であり続けます。なぜなら、数学は人間が作った論理体系の中で完結しているからです。

自然科学は「観測」から始まる

一方、自然科学は全く異なるアプローチを取ります。自然科学は、この宇宙が持つルールに対して、人間が実験と観測を繰り返して「法則」を見つけ出していく学問です。

例えば、「物体は質量に比例した力で引き合う」という万有引力の法則は、ニュートンがリンゴの落下や天体の動きを観測し、それらを説明できる法則として提唱したものです。この法則が正しいかどうかは、実験や観測によって検証されます。

ここで重要なのは、自然科学の法則は「発見」されるものであり、「証明」されるものではないという点です。どれだけ多くの実験で確認されても、それは「今までの観測では正しかった」ということを示すだけで、数学の定理のように「論理的に絶対正しい」とは言えません。

実際、ニュートンの万有引力の法則は、後にアインシュタインの一般相対性理論によって、より精密な理論に置き換えられました。科学の法則は、より正確な観測技術が生まれると、修正されることがあるのです。

「なぜ」には答えられない問いがある

この違いを理解すると、ある重要なことに気づきます。自然科学には、根源的には答えられない「なぜ」があるということです。

化学の授業で「水素と酸素が反応して水ができる」と習います。では「なぜ水素と酸素はこのように反応するのか」と問うとどうでしょうか。これは原子の構造や電子の振る舞いで説明できます。しかし「なぜ電子はそのように振る舞うのか」と問い続けると、最終的には「そういうルールだから」としか答えられなくなります。

自然科学は「どのように」起こるかを解明する学問であり、究極の「なぜ」に答える学問ではありません。宇宙がなぜこのようなルールを持っているのかは、科学の範囲外の問いなのです。

一方、数学では「なぜこの定理が成り立つのか」という問いには、証明という形で完全に答えることができます。なぜなら、全ては人間が定めた定義と公理から論理的に導かれるからです。

円周率を例に考えてみましょう。円周率が3.14159…という値になることは、誰かが「そう決めた」わけではありません。円周率は「円周÷直径」という定義から、論理的に導き出される値です。なぜ3.14159…になるのかは、数学的に証明することができます。

実際、2003年の東京大学の入試では「円周率が3.05より大きいことを証明せよ」という問題が出題されました。これは一見不思議な問題に見えるかもしれません。しかし、数学においては円周率の値すら「証明」の対象になりうるのです。円に内接する正多角形の周の長さを計算することで、円周率が3.05より大きいことを論理的に示すことができます。

このように、数学では「なぜその値になるのか」「なぜその性質が成り立つのか」を、定義に立ち返って完全に説明することができるのです。

マクロとミクロで使う式が違う

自然科学のもう一つの面白い特徴は、観測するスケールによって適用すべき式や理論が異なるという点です。

根本的には、宇宙を支配する基本法則は一つです。しかし、その法則をそのまま使うと計算が非常に複雑になるため、スケールに応じて「無視できる部分」を省略した式を使い分けます。

例えば、私たちが日常で経験する世界(マクロの世界)では、ニュートン力学がよく使われます。ボールを投げれば放物線を描き、車が走れば等速直線運動や加速度運動をします。実は、マクロの世界でも量子力学の効果は存在しているのですが、その影響があまりにも小さく、誤差の範囲に収まってしまうため、無視しても問題ありません。

一方、原子や電子といった極めて小さな世界(ミクロの世界)では、量子力学の効果を無視できなくなります。粒子が同時に複数の場所に存在する確率を持ったり、観測するまで状態が確定しなかったりといった現象は、マクロでは無視できるほど小さかった効果が、ミクロでは無視できないほど大きくなった結果です。

同様に、日常的な速度では相対性理論の効果は無視できますが、光の速さに近い速度で動く物体では無視できなくなります。時間の流れが遅くなる効果は常に存在していますが、日常の速度では測定できないほど小さいのです。

このように、基本法則は一つでも、スケールや条件によって「どこまで計算に含めるか」が変わります。適切な近似を選ぶことで、複雑な現象を扱いやすい形で理解できるようになる。これも自然科学の面白さの一つです。

違いを知ることで深まる理解

数学と自然科学の違いを意識することで、それぞれの学問の本質が見えてきます。

数学を学ぶときは「なぜこの定理が成り立つのか」を論理的に追いかけることができます。証明を理解することで、その定理が自分のものになります。

自然科学を学ぶときは「人類がどのようにしてこの法則を発見したのか」という歴史的な視点を持つと面白くなります。また「この法則はどこまで適用できて、どこで破綻するのか」という限界を意識することで、より深い理解が得られます。

どちらの学問も、人類の知的探求の素晴らしい成果です。その違いを理解した上で学ぶことで、学問の奥深さと面白さをより味わえるようになるでしょう。